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イヤー・オブ・ザ・ラーメン [AtBL再録1]

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 伊丹十三の評判のラーメン・ウェスタン『タンポポ』は敬して遠去け、まだ観ていませんし、今後も見ないでしょうが、正月映画で公開される『ハメット』から次にひかえる『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』まで、チャイナタウンものの連続には、時代はラーメン・マフィア映画のものになってきたかと感慨すざるをえません。

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 チャイニーズ・マフィアの血の抗争を描くヴァイオレンス巨篇、というわけです。二作ともに、チャイナタウンの大セット、中国人のギャング、謎の中国女(これが美女とはいいがたい)のからみ、とどうも似たような印象が残ります。
 そういえば一昔前に題名もずばり『チャイナタウン』というのがありました。亡命ポーランド人ポランスキーがつくったムード・ハードボイルドです。けれど重要な傍役で出演したのは中国人ではなく、ロマン・ポランスキー自身であったわけです。
 七〇年代のハリウッド映画をマイノリティの進出の時期だとすれば、八○年代はその安定的多様化ということができるようです。要するに『ゴッドファーザー』などのスパゲティ・ヴァイオレンスの位置が、今、ラーメンにとってかわられようとしています。テレビの人気漫画のラーメンマンは死にましたが、アメリカン・ヴァイオレンスの主役はラーメンの時代になってきたようです。

 ブルース・リーや高倉健にむけられていたオリエンタリズムの視線は、今ではもっと、平常心に近いものになっています。このことは単純には、アメリカ社会がマイノリティを受け入れる容量が増大したことを語っています。しかし一方では、二世紀という国家の短い歴史の中で経験した初めての敗戦であるヴェトナムは、屈折した排外意識を潜在化させているようです。いわば「勝ち組」の存在です。かれらにとっては常に戦争は継続されていなければならないのです。シルベスター・シリコン筋肉・スタローンに頂点をつくった一連のMIA(行戦中行方不明者)ものは、むしろこの組のストレートな絶叫に他ならないようです。
 私見によれば、マイケル・チミノは屈折した「勝ち組」の心情的イデオローグです。『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』は、戦争を国内のマイノリティ共同体に向って継続せよ、と明快に呼びかけています。同時にこの映画は、『天国の門』で天下周知の地獄の辛酸をなめたチミノの復帰作でもあるわけだから、チャイニーズ・コネクションの内部抗争とそれに単身立ち向かう鬼刑事の闘いとをソツなく描きわける、という手腕も誇示する必要がありました。組織と癒着する警察機構からはぐれた正義派の孤立と苦悩、というステロタイプがここで飽きもせずに繰り返えされるわけです。
 演ずるは憂愁の暴力派ミッキー・ローク。直接的な怒りによって前のめりに突進していく暴力警官の役ですが、むしろベスト・ドレッサーぶりに見どころがあるといえるようです。もちろんこの映画は、主として、ミッキー・ザ・スーパースターの路線になっているわけです。較べてファミリーの側の描写は、セットやモブ・シーンに迫力をみせる他、平板に終始するようです。これは中国人マフィア争討すべし、の作者の姿勢から当然の結果かもしれません。この姿勢は、ヴェトナム復員兵士である主人公を通して、はっきりと主張されるわけです。
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 スパゲティ・ハードボイルドはデ・パーマの『スカーフェイス』あたりで終りを告げたようで、ハードボイルドとはこの場合、堅ゆでとゆですぎの両義性に解すことができるようです。ゆですぎスパゲティは日本文化の恥、とは伊丹十三氏の持論でありますが、ラーメン・ハードボイルドは、果してどちらを意味するのでしょうか。

「月刊PLAY BOY」 1986年2月号


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