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タヴイアーニ兄弟『サン・ロレンツォの夜』 [AtBL再録1]

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 窓枠に仕切られた星空を流れ星がよぎる。赤子を寝かしつける母親は、あの時代を一つの「神話」にも似せて、寝物語る。物語はパルチザン抗戦の記憶を扱い、それからは相対的に昇華されてある。栄光の記憶ではない。同郷の人々が対峙し殺し合った癒しがたい傷の記憶だ。そこから昇華された物語とは《いやいや「一つのメルヘンだ」》であるかもしれない。それにしても、悲惨と残虐と喜悦と慟哭とがぎっしりつまった贅沢なメルヘンであることか。

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 タヴィアーニ兄弟は前作『父――パードロ・パドローネ』から、一層、闊達な画面をおくり届けてくれた。とはいえ、前大戦末期、断末魔のあがきを続ける独軍と解放の希望を風にのせて進軍してくる米軍とを後景に、同族相い戦うイタリアの一地方の悲劇、という設定だけをきけば、すでにうんざりする観客も多いことだろう。これを解消させてしまう作者の力量がある。
 『サン・ロレンツォの夜』は使い古された題材こそ逆に古びることは
ないのだという定理の証明になったようだ。

 独軍の撤退と米国の進駐を待つ村、人々は、教会に集まって待期する一派と米軍を捜して村を出る危険を選ぶ一派とに分かれる。集団が主人公である。ガキたちは夜中に片隅で放尿する娘に目をこらしながら一斉に青いペニスをこすり立てる。自分の家など爆破されてしまえと叫んだ娘も、砲撃の音を待つ長い時間に、あの居間とあの鏡だけは残してくれと願う。捧げる相手を夢見ながら裸体を映してみたその鏡の想い出が戻ってきたので。
 シシリア系の米兵部隊の話を聞かされたシシリア娘は一人仲間から離れて独兵に撃たれる。倒れる彼女は息絶えるまでの一瞬になおも、駆けよってくる兵士は同郷の米兵であり自分と恋におちる運命にあるのだと夢想する。数多くの死者の一人として臨月の新妻を喪った男は悲しみに記憶をなくしてしまう。少女二人は米兵と偶然に出会い百面相のコミュニケーションを交わす。
 村を出た一派は武装した抗戦グループと出会う。合流したかれらを待っていたのはファシストたちとの戦闘だった。幼ななじみの顔を敵側に見い出した娘は、再会の喜びもなく、新しいパルチザンの恋人がかれを撃つことを助ける。赤ん坊を喪った男は十五才の少年をその父親の眼前で射殺する。いたるところで旧知の名を呼びかわす撃ち合いがくりひろげられる。
 こうした「戦争」が喚起する人間ドラマの振幅の数々。それらは綿密に計算され、ステンドグラスの紋様のように丹念にはめこまれている。

 最高のエピソードが用意されているのは、この銃撃戦の後、パルチザンたちの農家に一行が宿を借りる夜のことである。
 『父』の頑迷固陋な家父長役に続いて、重厚に迫るオメロ・アントヌッティ扮するところの、つまりは老いらくの恋の一夜だ。水浴の場面などいくつかで充分の伏線がはられた上で、このフルムーンの一夜がくる。一つベッドを割り当てられてかれらは少年たちのような羞じらいととまどいに包まれる。四十年前にこうなっていたらと老いの繰り言もやかましいこの映画史上に残る高年令ラヴシーンのリリシズムは、新鮮で感動的だった。特に、一本のローソクに手が伸びて灯りを消そうとすると、消さな
いでと別の手が重なって、ジジババSEXの前奏になるシーンは素晴しかった。

 次の朝は、米軍の到着。一行は村に帰り、物語は終るわけだが、ジイさん一人雨に打たれて物想いにふけっている。かれの脳裡をよぎっているだろう甘やかな時間の味わいで締めるという作者の計算である。

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 ここでまた御丁寧に物語の梱包者が口をさしはさむ。窓枠に仕切られた星空をよぎる流れ星。ミ・アモーレ。ボーヤ、おとぎ話はおしまいよ、のナレーション。観客としては、映画館の灯りがつくその少し前に、前段階的覚醒をいわば強いられてしまうわけだ。影の声はまた、本当のお話しにもハッピイ・エンドはあるのです、といいきかせてくれる。ここでゲッソリ、流れ星流れるごとく星印一つおっこちる。          
 余計なお世話ではないか。
 あまりにも生臭いメルヘン鑑賞の後は、ボーヤ、イイコだネンネしろ、ですか。眠れるものですか。映画の途中で眠るのは観客のひそかな快楽であるけれども、終ってからネる馬鹿がどこにいる?
 ぼくなどはこういうべッドサイド・ストーリーで育てられた年代かもしらん。どうりで最近は寝つきが悪くて困っている。

「日本読書新聞」1983年3月14目号

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